視聴覚教材『仏陀との出会い―王舎城の物語』のVHS(2002年) 及びDVD(2010年)は、『仏説観無量寿経(観経)』の序分に説かれる王舎城の物語を学ぶため、『観経』の記述に則って映像化(40分)したものです。同朋会運動を展開する中で、推進員養成講座や同朋の会のテキストとして発刊された『現代の聖典』の内容を補完することを目的に、当時教育部が所管していた視聴覚伝道委員会が企画し、制作されました。
『観経』序分の禁母縁では、母である韋提希夫人を殺そうとした阿闍世王に対し、月光大臣が「王今為此、殺逆之事、汚刹利種。臣不忍聞。是栴陀羅。不宜住此。」(『真宗聖典』91頁)と諫める部分があります。映像では、月光大臣が母殺しを「悪逆非道なふるまい」「王族の家系・刹利種をけがすこと」「それは栴陀羅の行為」だと発言し、阿闍世王が母殺しを思いとどまる様子が描かれます。映像では「是旃陀羅」という差別表現が『観経』の記述そのままの表現で用いられ、その問題性について言及がないままになっています。
「是旃陀羅」問題は、全国水平社の創立以来、約100年にわたって宗派が問われている問題です。映像を作成する際は、「是旃陀羅」という差別表現をあえてそのまま用いながら、差別の現実と向き合い、それを信心の課題として引き受けていくこととし、作品冒頭でそのことに触れるとともに、同梱する解説用の小冊子で「是旃陀羅について」の項目を設けておりました。
しかしながら、このたび、上記の内容では「旃陀羅」が「母殺しをするような、悪逆非道なふるまいをする人々」だとする見方を否定していないため、映像を視聴した方が差別語としての「是旃陀羅」をそのまま受け取り、差別的偏見を助長し、拡散することになりかねないという、指摘を受けました。このことを受け、宗務所内の関係部門で協議した結果、指摘された可能性を否定できないことから、上記のVHS及びDVDの販売を停止することといたしました。
なお、「是旃陀羅」の課題に関する宗派の取り組みについては、「部落差別問題等に関する教学委員会報告書」(『真宗』2017年3月号・解放運動推進本部ホームページ)にて掲載しておりますので、ご参照くださいますようお願い申し上げます。
解放運動推進本部