ハンセン病回復者の家族らによる国に対する謝罪と損害賠償を求める裁判が提訴されたあと、真宗大谷派では、公正な判断を求める署名を宗門内に呼びかけ、一万筆を超えるご協力をいただきました。去る6月28日、熊本地方裁判所において、国の責任と賠償を認める判決が下されるとともに、7月9日、政府が控訴断念を表明したことを受け、宗派声明を発信いたします。
6月28日、熊本地方裁判所において、ハンセン病回復者の家族らによる国に対する謝罪と損害賠償を求める裁判(以下、ハンセン病家族訴訟)について、国の責任と賠償を認める判決が出されました。
真宗大谷派は、この判決を、ハンセン病家族が苦難の人生を余儀なくされたのは国の隔離政策が原因であると明確に示した画期的な判決と受け止めます。そして、国がこの判決を尊重し、今後、家族への偏見・差別を解消し、家族関係の回復に向けた実効性をもった法律の制定や施策の遂行など、その責任を果たしていくことを強く求めます。
私たちは、1996年に「ハンセン病に関わる真宗大谷派の謝罪声明」を表明し、国と教団が連動して、隔離政策を支える社会意識を助長したことを認めました。そして、国策に追随して説いた「教え」と権威によって「病そのものとは別の、もう一つの苦しみ」をもたらしたことを、隔離されてきたすべての「患者」と苦しみを抱え続けてこられた親族・家族に対して謝罪いたしました。しかし、2016年からはじまった訴訟において、あらためて問われたのは、見失っていた家族の尊厳に関わる「もう一つの苦しみ」であります。
今回のハンセン病家族訴訟の判決では、「らい予防法」が廃止された後も、ハンセン病家族たちは偏見・差別を恐れ、秘密を抱えながら生きることを強いられたと指摘されています。それは、国の隔離政策によって、偏見・差別を受ける社会構造がつくられたためであり、その中で家族たちは、人格形成や自己実現の機会が失われるとともに、家族関係の形成が阻害されたのです。そして、これらの差別被害は、生涯にわたって個人の尊厳を脅かす重大な「人生被害」であり、その偏見・差別をなくす義務を国が負っていると明確に判断されました。
このことは教団と無関係ではありません。ハンセン病問題において、「当事者」でない者はいるのでしょうか。今こそ私たちは、人間であることの根本的課題として向き合い、原告として名のりをあげられた方々の声を、真摯に聞いてまいりたいと思います。そして、隔離政策の被害者/加害者が共に解放される道を見出し、その歩みを続けていく決意を表明いたします。
2019年7月9日
真宗大谷派宗務総長 但馬 弘