ハンセン病療養所入所者の人間としての尊厳回復を求める要望書
ハンセン病療養所入所者の人間としての尊厳回復を求める要望書
私たち真宗大谷派は、1996年4月、「らい予防法」廃止に時をあわせ、1907年以来、ハンセン病隔離政策に教団として加担してきた歴史を反省し、謝罪声明を発表しました。同時に国に対して今後のハンセン病政策に対する要望書を提出し、以降、宗派として、ハンセン病療養所入所者との交流や課題共有を行い、私たちの宗門の歴史を問い直すことによって、問題に対する取り組みをすすめてまいりました。
その間、ハンセン病国賠訴訟の原告勝訴判決や、「ハンセン病問題の解決の促進に関する法律」(「ハンセン病問題基本法」)の制定など、ハンセン病問題をめぐる状況は大きく変化し、それらはハンセン病問題の全面解決に向けての大きな流れとなりました。
しかし、全国ハンセン病療養所入所者協議会は、本年7月に開催された臨時支部長会議において、国に対して政策の実施を求める実力行使決議を採択いたしました。
それは、「いまや国の責任をも顧みず、反動的政策を強行する政府の姿勢に対し、断固実力行使をもって抗議をし、直ちに抜本的改善措置を講ずるよう全療協の総意により強く要求するものである。」という強い言葉で結ばれています。
平均年齢82歳を超える入所者の方々が、ハンストや座り込みという文字通り命がけの行動をいま起こさなければならないのは、これまでの取り組みが、入所者の療養所での生活に真の安心をもたらすことに繋がっていない現状があるからです。
私たちはこの全療協の決議を、国の施策に対する訴えのみならず、いまだ真の隔離からの解放を実現することができない、この社会、そしてそれを構成する私たち一人ひとりに対する厳しい「糾弾」の声と受け止めます。
その中で、とりわけ深刻な問題としていま訴えられているのが、療養所の中における、医療・看護・介護にかかわる問題です。
先ごろ東京で開催された、ハンセン病問題の全面解決に向けた集会では、療養所の職員の定員削減により、看護・介護、給食等が著しく損なわれている現実が赤裸々に語られました。入所者のいのちが大きく脅かされているのです。
国は、国賠訴訟後の原告団、全療協などとの協議により、恒久的な「在園保証」を約束いたしました。これは、国が、入所者らに対する施しとしてではなく、誤った政策がもたらした被害に対する責任としてなされるものであったはずです。その意味において、他の施策とは大きな一線を画するものであります。
しかし、いまその約束も反故にされかねない状況にあります。
そのような実態を見聞きする中で、私たちは、自らの責任として、国に下記のことを強く要望せざるを得ません。
どうか、ふたたび隔離の苦しみを受けることがなく、人間としての尊厳をもって最後まで生きられるよう、国としてハンセン病療養所入所者の方々の訴えに真摯に向き合ってくださるよう切に願います。
記
1 ハンセン病療養所の医師不足解消に向けた施策を今すぐに講じるとともに、国家公務員の 定数削減の対象からハンセン病療養所を除外し、看護師・介護員の大幅増員を図ること。また、賃金職員の正職員化をすみやかに行うこと。
2 「ハンセン病問題の解決の促進に関する法律」の精神を遵守し、ハンセン病療養所が地域社会の中で再び孤立しないよう、地方自治体との連携のもと有効的施策を実施すること。
3 ハンセン病療養所入所者と家族、故郷とのつながりの回復に向けた、具体的取り組みを開始すること。
以 上
2012年12月27日
真宗大谷派 宗務総長 里 雄 康 意
内閣総理大臣 安 倍 晋 三 殿
厚生労働大臣 田 村 憲 久 殿