11月25日仙台地方裁判所において裁判員裁判による死刑が言い渡されました。11月16日、横浜地方裁判所の死刑判決に引き続き2例目となります。そして今回は、裁判員裁判においてはじめて少年に対して言い渡された死刑判決です。
私たち真宗大谷派は、1998年より、死刑執行のたびに抗議声明を発し、死刑の廃止に向けた議論の場を設けることを提起してきました。このたびの裁判では、その議論が十分に果たされていない状況の中で、現行の「裁判員制度」が抱える問題が表出したものと思われます。
また2009年6月には、最高議決機関である宗会(常会)において「死刑制度に反対し裁判員制度の見直しを求める決議」を可決いたしました。その決議のなかで「自らは死刑の判断をしなくとも、死刑判決に関わってしまったという心の傷は、一生自らを苦しめることになります。こういった苦悩は、私たち真宗門徒だけでなく、全ての国民が抱く苦悩だと思います。」と述べましたように、このたびの裁判は、加害者、被害者とそれぞれの家族に加えて、死刑という形で人の命を奪うことに苦悩する人を新たに生み出しています。
「司法制度改革」と「司法の国民への開放」は重要な取り組みでありますが、現状の「裁判員制度」は裁判員の辞退を容易に認めず、罰則によって義務付け、国民に物心両面にわたる負担を強いています。
人が人に対して、「生きる価値がない人間」と判断することはあってはならないことであり、私たちは、裁判員裁判においても死刑判決を下してはならないと思います。それは、いのちは人間が所有しているものではなく、いのちによって生かされているのが私たち人間であるからです。
今回のように、罪を犯した少年に対して、更生することが難しいなどと断ずることは、私たち人間が生まれ、育ち、学ぶ可能性を奪うことになります。罪を自覚し償う機会は、少年であればこそ十分に与えられるべきであります。
釋尊は、「殺してはならない。殺させてはならない。」と私たちに教えています。その教えに生きる仏教徒・真宗門徒として、司法制度改革は、死刑を廃止することから始まらねばならないと考えます。
このたびの裁判を機縁として、真の司法改革に向けて、死刑の廃止と「裁判員制度」の見直しに向け、直ちに議論の場を持つことを改めて訴えます。
2010年11月27日
真宗大谷派宗務総長 安原 晃