去る7月24日、国会における「有事関連三法案」の衆議院有事法制特別委員会質疑において、福田官房長官が明らかにした武力攻撃事態での国民の権利制限に関する政府見解は、当派として見逃すことの出来ない内容であることから、8月5日小泉内閣総理大臣宛に抗議文を提出した。
「有事関連三法案」に係る国民の権利制限に関する政府見解に対する抗議文
先の国会において上程された「有事法制関連三法案」(「武力攻撃事態法案」「自衛隊法等一部改正案」「安全保障会議設置法一部改正案」) は、継続審議とされ、今秋に予定される臨時国会での成立が目指されています。私たちは、そのこと自体にも危惧をいだくものですが、このたびの7月24日の衆議院有事法制特別委員会の質疑の折に、福田康夫官房長官が行った武力攻撃事態での国民の権利制限に関する政府見解は、見逃すことのできない内容のものであります。
政府見解では、武力攻撃事態(有事)への対処という「国及び国民の安全を保つという高度の公共の福祉」のためであれば、個人の思想・良心・信仰への制約もあり得るとされており、「公共の福祉」の名のもとに、自衛隊への協力が強制されることが明言されています。
もしこれが、事実とすれば、かつての日本が国家の大義のために、国民の精神までも動員し、アジア太平洋地域をはじめ世界中の人々に言語に絶する惨禍をもたらした、そのことと同じ道が辿られようとしているとしか考えようがありません。「日本国憲法」が戦争放棄という崇高な理念を掲げ、個人の尊厳を基本的人権としてもっとも尊重すべきこととうたっているにもかかわらず、「国及び国民の安全を保つ」という美名のもとにこの憲法の精神を空文化するような行為は断じて許してはならないと思います。
私たち大谷派は、かつての戦争において、宗祖親鸞聖人の仰せになきことを仰せとして、時の国家に追随し、多くの方々を戦地に送り出し、人々の尊いいのちを死に至らしめた、あがなうことのできない歴史を有しています。そのことの懺悔に立つとき、私たちは、阿弥陀如来の本願があらゆる人々に平等に「十方衆生」と呼びかけられたご精神を今こそいただき直し、民族・国家・宗教などの様々な違いを認め合う共生の道を歩むことこそ、もっとも重要な課題であると考えております。
昨年9月の米国での同時多発テロとその報復戦争、そしてその後も世界中で起きているテロと戦争の連鎖は、今も多くの人々のいのちを奪い、悲しみは深い絶望へと変わりつつあります。こうした状況の中、今世界の人々が求めていることは、それぞれのいのちが尊重される平和な社会を実現することであります。しかしながら、このたびの政府見解は、平和を希求する人類の願いに著しく逆行するものであり、私たちはここに強く抗議し、「有事法制関連三法案」の撤回を要望するものであります。
2002年8月5日
真宗大谷派宗務総長 三浦 崇
内閣総理大臣 小泉 純一郎 殿